未熟者の言い訳に「初心忘るべからず」




 そろそろジャズを聴き始めて30年もたとうかというのに、まだまだ「ジャズならこれが一番です。」と断言できない優柔不断な私です。「昨日はあれがいいし、今日はあれがいいし、お酒を飲むならあれがいいし、対峙して聴くならこれがいい。」といった具合で一向にジャズの嗜好が収斂するきざしはありません。
 「マイルズを聴け」とか「ジャズは4ビートに限る」やら「パーカーさえ押さえてしまえば」などと誰にもわかりやすく言い切ってしまえたらなと思います。
 ブログに対するコメントの返事を書いていて、じくじくとこんなことを考えていました。こんな私に少しばかり言い訳を。

 前にも少し書いたことがあるのですが私はジャズを聴きたいと思って聴き始めたわけではありません(2005/07/21のブログ参照)。なにやらジャズを聴くうちに引き込まれるようにどんどんとその深みにはまっていき現在に至りました。
 最初からジャズに対しての鑑賞力に優れていたわけではなく、徐々にその良さに目覚め、幾度も大きな理解力のステージを登ってきたようです。二十才の頃は「マイルズなんてネクラなラッパは嫌いだ。」とか「だらだらと牛のよだれのような繰言を並べるコルトレーンはイモだ。」などとむちゃくちゃな暴言を吐いて、周囲のジャズファンの失笑を買ったりしていました。今から思えば顔から火が出るような気がします。


 「初心忘るべからず」という言葉がありますが、いつまでも物事を始めた頃のフレッシュな心構えを忘れずに精進すると言ったように理解されることが多いようです。
 しかし世阿弥の言う本来の意味は少し違うようです。

 『初心忘るべからず  時々の初心忘るべからず 老後の初心忘るべからず 』 

 始めた頃の芸に対する自分の出来や理解の程度を忘れずに覚えておくように 芸に対する出来や理解が深まりそれぞれの段階にあるときにも始めた頃の程度とともに覚えておくように 年老いて出来や理解がさらに深まっても始めた頃の程度を覚えているように
 
 ジャズを聴くことに対してこの言葉を当てはめると
 「ジャズを聴き始めた自分の理解力がいかほどであったか忘れないように。少しばかりジャズがわかり始めたときに自分がどう感じていたかを忘れないように。ジャズに対する鑑賞力が十分についたと思えるようになってもかつての自分の理解がどうであったかを常に忘れずに、更なる理解を目指し聴き始めた人にも手ほどきするように。」

 古典芸能好きの私ですがどうもお能というのは理解が進まなくて、ほうってあるのですが、この世阿弥という爺様は気にかかるひとです。
 
 自分がカタツムリの歩みのようにゆっくりとジャズに対する理解を進めてきたのがわかっているので、そしてその先のジャズの楽しさも大きいであろうと思うがゆえの優柔不断。
 こんな風に思っていただけたら幸いなんですが。いやいや長い言い訳でした。 
 いっぺん「あの王様もこの王様も裸だ!」て叫んでみたいなとは思いつつ…

2006年02月24日 埋もれたCD紹介 トラックバック:0 コメント:8

ハンプトンはずっとハンプトン



"Something special" Hampton Hawes (contemporary)

 ある一人のミュージシャンについてどの時期が最良であるか、もしくは好ましく思えるかということで会話が交わされることがあります。
 ジャズメンの中にも一貫してスタイルが変わらないという人もいます。たとえばジョニー グリフィンやデクスター ゴードンなどがそういった人達だと言えます。
 スタイルが変わる間もなくその一生を終えてしまうミュージシャンもいます。クリフォード ブラウンやレム ウィンチェスターなどがそうです。その他にも話題になるとすぐにジャズシーンから消え去ってしまってその後はどうなったのかわからないという人達もいます。
 これらの人々はそのスタイルの変遷ということが問題になることは無いのですが、長いミュージシャンとしての活動の中で幾度かの大きなスタイルの変化をみせる人達がいます。こういった人達について冒頭に上げたようなことがまま話題に上るわけです。
 「復帰後のペッパーはいけない。」とか「アセンション以降のコルトレーンは聴けない」やら「電化マイルス以降は聴くに値しない」などと世間の人達のなんとうるさいことかと思います。確かに自分の好みでジャズを聴くことは問題が無いのですが、自分の好みを人に押し付けるのは私にはあまり感心な事とは思えないのです。
 一流のミュージシャンがある日を境にして急に聴く価値を無くしてしまうことがあるのでしょうか。私には到底そんな事があるとは思えません。ジャズはまさに生き物でそれを紡ぎだすミュージシャンもまたひとところに留まり満足してしまうはずは無いのです。才能溢れるミュージシャンであればあるほどどんどん変化してしまうのは当たり前の事だと言えます。
 その変化にとまどいそれを価値の無いことだと考えるのは聴き手の力の無さをさらけ出してしまっただけのように思います。

 ハンプトン ホーズもまたそのキャリアの中でスタイルを大きく変えた人だといえるでしょう。彼の名はジャズピアノ入門といった本を開けば必ずその名を見つける事ができるはずです。50年代の後半に残されたコンテンポラリーでのトリオやギター入りの録音は演奏者はもとより聴き手にとってもまさに教科書の様な扱いがなされています。
 わかりやすく明解なアドリブ、テクニックにも溢れ小気味良くスゥイングするピアノ。この頃のホーズのピアノが嫌いだという人にはあまりお目にかかったことがありません。
 その一方、60年代後半以降のハンプトンについての評価はあまり芳しくないように思います。「アドリブのラインが長くなり難解」、「暗い」、「スイングしなくなった」などと否定的な意見が多く聴かれるように思います。
 
 ここに紹介しているアルバムは1976年のライブ録音です。彼の死のおよそ一年前の記録で最晩年の作品と言えます。永きに渡って共演をしてきたリロイ ヴィネガーのベースを伴ったトリオにデニー ダイアズのギター(スティーリー ダンでの演奏でご存知かも知れません)がいいアクセントになっています。
 ハンプトンのオリジナルが三曲と、「サニー」、「セント トーマス」、「フライ ミー トゥー ザ ムーン」と言ったおなじみの曲が演奏されています。ライブの演奏と言う事でエンターティンメントの要素もたっぷりで親しみやすい演奏になっていると思います。
 50年代の演奏に比べその音楽は内省的な色を深め表現力も大きく増しています。もとより持ち合わせていたブルージーさも深化しあわせて洗練さを獲得したともいえると思います。表面的には昔のような軽いスゥイングはなくなったように思えますが、それとは別に大きなうねりとダイナミクスを感じます。
 復帰後のハンプトン ホーズが輝きをなくしたなんていったのはどこの誰なんでしょう。
 最晩年に彼が勝ち得た境地をジャズを愛する人達に一人でも多く聴いていただけたら嬉しく思います。


2006年02月18日 埋もれたCD紹介 トラックバック:1 コメント:17

ジャズ喫茶でのいいリクエストって??? (BlogPet) (BlogPet) (BlogPet) (BlogPet) (BlogPet)

sonnyが
れこーどの演奏史上最低の出来であったにもかかわらず、その患者さんはとても喜んで感謝してくださったそうです。
って言ってたけど…

*このエントリは、BlogPet(ブログペット)の「silver」が書きました。

2006年02月17日 blog pet トラックバック:0 コメント:1

ロン ヘインズ 驚きのデュオ



"2 Man Crew" Ron Haynes(Prosper)

 ジャズの演奏では最小の単位でもリズム隊と呼びならわされるピアノ、ベース、ドラムスが参加していることが普通です。それにはそれなりの理由があるわけでそのうちのひとつの楽器でも欠けるとジャズの演奏はなかなか難しくなるものです。ピアノの替わりにギターが参加したりと言った交換の利く楽器が参加することはままあることです。
 デュオつまり二人だけで演奏する場合は演奏がかなり難しくなるのは間違いありません。デュオという形態を採る場合、たいていの場合ベース又はピアノと他の楽器という組み合わせを採ることがほとんどです。これらの楽器はコードの提示を行う事が出来ますし、メロディを奏でることも出来ます。これらの楽器としての能力の広さがピアノ又はベースがデュオで用いられる大きな理由だと思います。同じ理由からギターがデュオで使われることも多いと思います。
 しかしここで紹介するデュオのアルバムはトランペットとドラムスという編成です。この編成だけを見るとたいていの方はフリーの演奏ではないかと想像すると思います。私も初めはそうではないかなと思ったのですが、内容はとてもダンサブルでファンキーな演奏が収められていました。
 トランペットはフルに鳴りわたりドラムスもかなり高めにチューニングされた音で迷いの無い音を響かせています。実際のところほとんど知らないミュージシャンのデュオということでそれほどの期待は持っていませんでした。ところが私の期待をはるかに上回る演奏内容で嬉しい誤算となりました。
 デュオという構成上それぞれの楽器の持つウエイトはとても大きいわけで、それぞれの奏者が他の奏者に頼らず自分自身の足でしっかりとした演奏を行わないと音楽はいとも簡単に破綻してしまいます。トランペットのロン ヘインズもドラムスのヴィック ベーカーもそれぞれ大地を踏みしめるようにしっかりと立ち、自信にあふれた演奏を繰り広げています。
 ロン ヘインズのトランペットのピッチの確かさタンギングの自在さ良くなるまさにトランペットらしい音。これほど素晴しいトランペッターをノーマークにしていた自分自身の不明を恥じたい気がします。ヴィック ベーカーにいたっては全く知らないドラムスでしたが、一音一音に無駄が無く個性あふれる演奏振りでこれまた脱帽です。
 曲の構成がとても良く考えられていてそのうえに楽器が上手いということで、単に良く出来たアルバムという結果であったかも知れない演奏。ですがこのアルバムは私をここしばらく味わったことも無い新鮮な気持ちにさせてくれました。
 二人の演奏に共通する点が2つあります。楽器が非常に上手くとても思い切りよく音を出すこと。もうひとつはとてもグルーブあふれるノリを持っていることです。この点により演奏が優等生的な演奏にとどまることもなく、勢いにまかせただけの演奏にも終わらないアルバムを作り上げたのだと思います。
 ジャズにかかわらずノリのよい勢いあふれる音楽を好む方に強くお勧めしたいと思います。多少手に入れにくいと思いますが、一度大きめの音量で聴いていただければと願います。
 次回にはこの二人にガンガンぶちきれたフレーズを繰り出すピアニストかベーシストを加え、どこまでアウトできるかといったところを聴いて見たい気がします。どこかのメーカーさんが頑張ってくれないものかと期待します。

2006年02月03日 新譜紹介 トラックバック:1 コメント:6