気難しい爺さんの達観したピアノトリオの演奏 リチャード ワイアンズ

Get Out of Town
"Get Out of Town" (Steeple Chase) Richard Wyands
Richard Wyands (p)
Peter Washington (b)
Kenny Washington (ds)


リチャード ワイアンズの名前を知っていたのは
ちょっと前まではかなりのジャズ通であったはずです。


古くから活動していたにもかかわらず
彼がリーダー作を発表したのはとても遅く1978年がファーストアルバムです。

しかしサイドメンとしてのレコーディングはすでに50年代よりあります。
しかもそのリーダーたちがチャールズ ミンガス
            オリバー ネルソン
            ジーン アモンズ
            ローランド カーク
            ロイ ヘインズ
といった一流ミュージシャンであるのですから
リチャード ワイアンズのことは無名だとはとても呼べない
錚々たるキャリアを積んだミュージシャンであるといえます。


先にも書いたワイアンズのファーストアルバムは
ジャズクラフトというデンマークの
マイナーレーベルから出版されました。

ジャズクラフトは
ほぼ二年足らずの活動期間しかない会社で
たったの8枚のカタログを残して解散してしまいます。

1980年ぐらいにジャズクラフトのアルバムが
日本のレコードやさんの店頭にあらわれたときには
さほど注目を集めたレーベルではありませんでした。

多分仕入れたレコードが売れ残って不良在庫になっていたのでしょう
しばらくするうちにジャズクラフトのアルバムは
バーゲン盤のえさ箱に突っ込まれるようになっていました。

そしてあっという間にジャズクラフトというレーベルは
レコードやさんの店頭からはなくなってしまいました。


ところが
そのジャズクラフトには
まさに通好みのピアニストであるヒュー ローソンの
これまたファースト リーダー作が含まれていました。

人間というのはおかしなもので
あるときにはさほど欲しがらないものですが
ないとなったら欲しくなるのが悲しい性です。

今度はあれよあれよという間に
ジャズクラフトのヒュー ローソン盤は
中古市場で高い値段がつくようになりました。

一時は7-8千円もしていたはずです。


それに引きずられるようにして
リチャード ワイアンズのクラフト盤も評価が上がり
コレクターズ アイテムと化したのでした。


ただの希少盤としての価値だけでは
ワイアンズのレコードもコレクターズアイテムとはなりえないわけで
ジャズクラフトの"Then, Here and Now"は
なかなか滋味ぶかい味わいのあるピアノトリオ盤でした。


さて、これだけ一定のジャズファンの間で価値を認められるようになったワイアンズが
つぎつぎとリーダー作を発表するかと思いきや
つぎにリーダー作がレコーディングされたのは90年代になってからでした。

それらのリーダ作は日本によっても製作されていますし
スティープルチェースやクリスクロスといった有名レーベルからも出版され
ワイアンズの名前は広くジャズファンの間に知られるようになりました。



ワイアンズのピアノスタイルを表現するのに
レッド ガーランドの名前がよくあがります。

確かに50年代から60年代くらいの演奏には
はっきりとしたガーランドの影響を聞き取ることが出来ます。

しかし現在の彼の演奏ぶりとしては
むしろウィントン ケリーの演奏が最も近いように聞こえます。

ただしケリーのように跳ね回るようにスウィングするのではなく
あくまでも地に足が着いたような演奏です。

昔日にはガーランドの左手の特徴的なビートが顕著であったのが
年月を経るにしたがってメロディをうたわす右手が浮き上がってきたのではないでしょうか。


ワイアンズの美点はその演奏が確たる自信に溢れていて
抑制が効いている点にあると思います。

バラードの演奏ではしっとりとしたメロディのうたわせ方をしますし
アップテンポの演奏ではしっかりとスウィングします。


私が思い描くリチャード ワイアンズ像は
確かな腕のあるちょっと頑固な和菓子職人といった感じです。



冒頭に上げたこの"Get Out of Town"でも
これらのワイアンズの特徴をしっかりと聞き取ることが出来ます。

取り上げている演奏曲の中に
イヴァン リンスの"Love Dance"が入っているところに
リチャード ワイアンズの演奏に対する柔軟性と趣味のよさを感じます。

さらっと趣味の良いピアノトリオを楽しみたいという方に
うってつけの佳作です。





1928年の生まれといいますから
もうホレス シルバーぐらいしか
同年代の現役ピアニストはいないんじゃないでしょうかね。

いっぺん活きのいい若手のリズム隊と組ませた演奏を聴きたいもんです。



この記事で紹介したアルバムです
Get Out of Town







2011年06月21日 埋もれたCD紹介 トラックバック:0 コメント:2