キャノンボールが床屋で、盗人だった友人フィリーに出くわしたお話

前回に続いて
チェット ベイカーの評伝からエピソード紹介を。

「終わりなき闇」 ジェイムズ ギャビン

チェット ベイカーに限らす1950年代アメリカのジャズミュージシャン達には
ヤク中でお薬代に窮してレコード会社に前借をするものが多かったようです。

業界でいうところのヴァンス(advance)ですね。
お芝居の上海バンスキングはここから来たタイトルです。

以前にブルーノートのアルフレッド ライオンの奥さんがインタビューで
スタンリー タレンタインがライオンの首を締めんばかりに
いくども前借を要求していたと話していました。


そんな事情はリヴァーサイドでも同様で
前借を要求するミュージシャンが事務所に列をなすことも
多かったようです。

あまりに前借を繰り返すミュージシャンが多いので
リヴァーサイドではその代償としてミュージシャン達を
倉庫整理の要員として働かせていたそうです。

こんなことは容易に想像がついたであろうに
ミュージシャンたちは倉庫からレコードを盗み出し
ストリートや人の集まる床屋などで売りさばいてお薬代を
ひねり出しました。


キャノンボール アダリーが床屋へ髭剃りに行ったときのこと
 背もたれを倒した椅子に横たわり
 顔に蒸しタオルをかけられてくつろいでいたアダリーの耳に
 「よう、お客さんたち キャノンボールの最新アルバムを
  買っておくれよ!」
と声が聞こえてきたそうです。

なんとその声はフィリー ジョー ジョーンズのものだったのです。
 「畜生! どうりでちっとも印税が入ってこないとおもったよ」
とキャノンボールが叫んだとか。


キャノンボールとジョーンズと言えば
マイルズ デイヴィスのグループ仲間ですね。
かの有名な

"Milestones" (Col)
Miles Davis

はその一枚。

リヴァーサイド時代にも二人は幾度か共に録音をし
アルバムを作成しています。

ひょっとしたらジョーンズの売りさばいていた作品は共演した

"Portrait of Cannonball Adderley" (Riverside)
Canonball Adderley

であったかもしれませんねぇ。

ここで共演している同じくマイルズのバンド仲間の ビル エヴァンズも
ひどいヤク中であったことも有名です。

エヴァンズをそんな悪癖へと引きずり込んだのは
マイルズのバンド時代でのフィリー ジョーであったとの話も有力ですねぇ。

エヴァンズもチェット ベイカーほどではないにしても
ある面ではなかなかの小悪党であったとも聞きます。


フィリー ジョーもベイカーに比べれば
こんなレコード泥棒なぞかわいいものに思えてきます。

チェットはレコードを盗み出して売りさばいたのはもちろん
もっとえげつない真似をいたします。


リヴァーサイドの事務所から小切手帖を盗み出し
ビル グラウアーのサインを偽造し換金しようとしました。

グラウアーはオリン キープニューズとともに
リヴァーサイドの共同経営にあたっていた人です。

ところがその小切手の換金時に
いつもはキープニューズのサインであるのに
グラウアーのサインは変だと気付かれ悪事が露見したようです。

ベイカーってやつは……


今回はちょっと笑えるお話をと思っていたのですが
またぞろ暗ーいお話にならないうちに
お暇致しとう存じます。






2017年08月26日 埋もれたCD紹介 トラックバック:0 コメント:0

悲しき呑み屋の下足番 チャーリー パーカーとチェット ベイカー

以前の記事で逡巡したのですが
結局のところチェット ベイカーの評伝をやっとこさ読了。

「終わりなき闇」 ジェイムズ ギャビン

後半分では
  チェット君 あんたいったい何べん同じ過ち繰り返しますねん
と小言も出るようなひどい展開でなかなか読み進むのもつらくなり
読むペースがはかどらずに苦労しました(笑)。

序盤のほうでは著名ジャズメンたちの知られざるエピソードが満載で
結構興味深く読み進むことができました。



話はちょっと飛ぶのですが
四半世紀ほど前の私のサラリーマン時代の話です。

私はあまりつるんで退社後の時間や休日を過ごすことはありませんでした。

吞みに行くのも一人であることが多かったのですが
盛り場のはずれの立ち呑み屋で一杯やることも多かったです。


当時私は密かに下足番と呼んでいたのですが
たまに呑み屋の玄関先で愛想を振りまきながら
引き戸を開けてくれる人がいました。

それは決してお店の店員さんなどではなく
お店の人たちからは疎まれ追い払われてしまうこともある厄介者。

見るからにみすぼらしい酔いどれの成れの果てと言える姿です。


彼らは全くの素寒貧で立ち呑み屋で自前で飲むこともできず
誰か酔狂な呑み屋の客が酒を奢ってくれはしないかと張り付いているのです。

今の私でもちょっとそんな飲んだくれに奢ってやることはないでしょうが
若き日の私はそういった下足番を眼にしたときは
心苦しく思いながらなんにも見なかったことにして
そそくさとお店に逃げ込んだものでした。



N.Y. 1954年のジャズクラブバードランドの店先

サイ ヤング(ミンガスやサド メルのアレンジャーとして著名)が
人気絶頂のチェット ベイカーの公演を聴こうと駆け付けます。

すると店先でやけにうぬぼれた態度の黒人男が良く響く声で
「今夜出演するチェット ベイカーという若者は素晴らしい
 彼の演奏が大好きになるでしょう」
と入店する客たちに声をかけていたそうです。

ジョンソンは入店して座席についてから
先ほど声をかけてきた男がチャーリー パーカーであったことに
気づいたのです。

慌てて店の外に飛び出してパーカーを探したのですが
店員に追い払われたようでもういませんでした。


パーカーはお薬の一件でキャバレーカード(演奏許可証)を没収され
演奏することもできずお金も無い。

誰かが自分のチケットを買ってくれて入店させてくれないかと
バードランドの店先で声をかけていたわけです。


ご存知の方も多いと思いますが
この有名ジャズクラブバードランドは
パーカーのあだ名のバードから店名を付けたものです。

そのバードランドの店先からパーカーが
追い払われているんですから……


とここまで読んで
私のサラリーマン時代の下足番のことが
フラッシュバックしたんです。

ミュージシャンのRやOのことも思い出しました。










2017年08月22日 未分類 トラックバック:0 コメント:0

"Rain check"- 「雨切符」 でポンと膝を打つ


"...And His Mother Called Him Bill" (RCA)
Duke Ellington


長年の懸案ともいえるエリントンなんですけれども
主食のモダンジャズを消化する合間をみながら
少しずつすこしずつ食べています。

冒頭のアルバムは先年に物故したビリー ストレイホーンに捧げた
追悼アルバムとして作成されました。

68年の作品ですのでエリントンの作品としては晩年のものになります。


私が手にしたアルバムは日本製作の物であったのですが
まずアルバムの曲目を眺めていて「おやっ」と感じた曲がありました。

「雨切符」ってなんのこと???
あーっ "Rain check"のことかぁ

"Rain check"と言えば
モダンジャズとして有名なのはなんといっても

"Work time" (Prestige)
Sonny Rollins


での若き日のソニー ロリンズの
快活にして豪快な演奏でありましょうな。


私は基本的にはアメリカの作品は
オリジナル盤ではなくともできるだけアメリカ盤で購入していますので
結構演奏曲の日本語によるタイトルは知らないことが多いです。

また、同一の曲について複数の日本語タイトルが
使用されていることもあります。

「雨切符」は初めてですなぁ
だいたいこんな日本語あるのかしらん


"Rain check"という言葉を辞書で確認したことはありませんが
PAのマイクのチェックの時に
「チェック チェック マイクチェック」なんて言いますが
あんな感じで雨が降っているかを確認することだと思っていました。


"RAINCHECK" (Concord)
Louie Bellson


このルイ ベルソン(この人もエリントニアンですな)のジャケットにあるように
 「雨を確認する仕草」
こんな感じですな。

ちなみにこのアルバムについては以前の記事でも
紹介したことがありますね。


 うーん、それにしても雨切符っていう言葉自体になじみがないなぁ
と思いながら一瞬ひらめくものがあり
"Rain check"をネットで検索してみると結果
   ((米))雨天延期試合入場引き換え券

なるほど
それでルイ ベルソンはお茶目に野球のユニホーム姿なのね

合点 合点 ガッテン


それにしても「雨切符」てな訳はどうでしょうなぁ
「雨天延期試合入場引き換え券」では長すぎますしねぇ
なかなかに「巴里祭」ばりの超訳は思いつかないものですね。


ところでこの作品ですけれども
オリジナルのライナーノーツにも触れられている通り
最後のエリントンのソロピアノによる演奏
"Lotus Blossom"

レコーディング終了後メンバー達が片づけをするさざめきの中
いつくしむように弾かれていてこの上もなく美しく
掉尾をがざるに素晴らしいものとなっています。

CDでの追加曲は
ほんまに蛇足ですわ

アルバムは完成しているのにねぇ
残念










2017年08月15日 埋もれたCD紹介 トラックバック:0 コメント:0

日本以外ではさほどの事ではないのだろうけれども

前回の記事で逡巡したのですが
結局のところチェット ベイカーの評伝

「終わりなき闇」 ジェイムズ ギャビン

を読むことになりました。
いまだ三分の一ぐらいをやっと読破したところなのですが
明らかな誤訳もしくは原作の誤記があり気になりました。

結構欧米の翻訳本にありがちな誤訳なんですが
兄弟の順序に誤りがありました。


有名な兄弟ジャズミュージシャンであるアダリー ブラザーズですが
お兄ちゃんがジュリアン ”キャノンボール”で
弟がナットです。

欧米ではあまり長幼の序列を問題にしないようで
原書ではただ"brother"と記述されることが多いので
翻訳者が適当に訳すと兄、弟が良く誤っていることがあります。

ちゃんとした出版社では校正係がチェックするはずですが
この本では訂正を見過ごされたようです。

ひょっとすると原書が誤っている可能性もありますが。


もう一つ兄弟の取り違えがあったのが
パウエル兄弟についてでした。

アダリー兄弟に比べれば
兄弟ミュージシャンとしての認知は劣るでしょうが
著名なバド パウエルにはリッチーという弟がいます。

ほぼ録音としてリッチーが名を残しているのは
マックス ローチ - クリフォード ブラウンのグループによるものです。

ただブラウンが亡くなる原因となった自動車事故により夭逝してしまい
兄のバドほどには名を残すことがありませんでした。

さて今述べたように兄がパウエルで弟がリッチーなのですが
これまた逆の記述になっていました。

これも原書の誤りである可能性も否定できませんけれども。


この記述箇所にはもう一つ誤りがありました。

これは訳者の責ではなく著者の誤りだと思いますが
前述のクリフォード ブラウンの交通事故についてですが
事故当時に運転していたのはブラウニーだと記されています。

実際にはリッチー パウエルの妻が運転し事故を起こしたとされています。

ブラウニーも事故の責を負わされるのは
良しとはしにくいことだと思います。


こう誤りが多く記述されているとノンフィクションである
本作の信憑性が疑われるものとなりましょうなぁ。

私が読んでいるのは初版本なので
後刷りでは訂正されているかも。


なにせ500ページ二段切りの大部ゆえ
つづきを読むのも迷うところですけれども
内容は知らないことが多く記されていて興味深いので読み進めています。

うーん
ゲッツの悪漢ぶりはつとに有名で知っていましたが
マリガンもたいしたもんですなぁ。

いやぁ 興味深い。









2017年08月14日 未分類 トラックバック:0 コメント:0

いやいやそんないい人じゃありませんて  チェット ベイカー


Miles Aheadを見たついでといってはなんですが
同時期に公開された"Born to be blue"も鑑賞しました。

"Born to be blue"はチェット ベイカーの半生を描いた映画です。
アフロアメリカンのジャズを主食としてきた私にっとて
チェット ベイカーというミュージシャンはそれほど馴染みのある人ではありません。
 
実際のところ"Born to be blue"という曲が
どのアルバムに収録されているかもわからず調べてみると


"BABY BREEZE" (Limelight)
Chet Baker

にありました。

チェット ベイカーの有名アルバムというのは
多分リバーサイドやパシフィックに残された辺りだとおもうのですが
このアルバムもファンには良く知られているものなのでしょうかねぇ。

さて例によってネット上で映画のネタばらしは避けますが
Miles Ahead同様に実際のチェットの半生とは
かなり隔たりのある内容となっています。

自堕落なチェットの人生を
極めて好意的に解釈して
あたかも絵になるように嘘でかためたような
   といったかんじですねぇ

実在のチェットの生きざまを無視してしまえば
映画としては鑑賞に堪えうる作品だと思います。

特筆すべきは映像の美しさでしょうか。


著名な写真家クラクストンによるチェット ベイカーの写真集

"Young Chet"

を眺めながら彼のエピソードについて
歌舞伎的綯い交ぜ手法を用いた作品とでも言えばいいでしょうか。


ただマイルズの映画と同様に
この映画の通りにチェット像を信じてしまうのはかなり問題ありです。


私の知る限りこの映画に出てくるような
チェットに献身的に尽くす恋人は全く存在しないはずです。

そしてチェット自身もこれほど人間味あふれるような人物とは
言い難いものであったと聞いています。


チェット ベーカーの実像を語ったノンフィクション作として

「終わりなき闇」 ジェイムズ ギャビン
500頁の二段ぎりハードカバーがつとに有名なのですが
あまりの大部に二の足を踏んでいるのですけれど
  さて 読もうか よむまいか

どうしようかしらん
ジャンキーの人生を垣間見るだけでも疲れそうですなぁ








2017年08月05日 未分類 トラックバック:0 コメント:0