スタンリー カウエルの会心作「musa」




"musa" Stanley Cowell (STRATA EAST)


一般的な認識としてジャズという音楽は演奏するのにとても習熟した、高度な技術が必要だと思われているようです。

けれども、周知のとおり演奏のテクニカルな面ではそれほどではなくても素晴しいジャズメンはたくさんいます。

技術云々と言う面ではそのアベレージはクラシックに携わる演奏家の方が高いのではないでしょうか。

そういったジャズ界においてもテクニシャンとして鳴らすピアニスト達がいます。古くはアート テイタム、そしてオスカー ピーターソン(復帰後はみるかげもありませんが)と言う二人は誰もが認める演奏技術の持ち主でしょう。

いわゆる馬鹿テクミュージシャン達の演奏と言うのもためにためするといった具合になると、まるで大道芸のみせもののようになってしまい、少々鼻白むものがあります。

演奏技術と言うのは自己の音楽を表現するための方途であり、それに見合っただけの腕さえあればいいということだと思います。

まあ、演奏技術のいたらなさから独自の演奏スタイルを築く場合も少なからず有ります。その代表格はかの御大マイルズ デイビスその人でありましょう。

一番望ましいのは高度な演奏技術をもちながら、必要な部分では遺憾なくそのテクニックを駆使しかつ音楽性の高さをもあわせ持つことであるのだと思います。

これは言うは易しですが、なかなかそのようなミュージシャンと言うのはいません。


ジャズピアニストの中でその素晴しいバランスを持ちえた人として真っ先に思い浮かぶのがフィニアス ニューボーン ジュニアです。

さてその次はと言うと私としてはスタンリー カウエルを挙げることに何のためらいもありません。

そのスタンリー カウエルの諸作の中でひときわ輝きを放つのが冒頭に紹介したムサです。

彼のアルバムに共通することですが、演奏に大きな感情の流れと共にしっかりとした知性を感じることが出来ます。

それは、急速調の曲においてもめんめんとしたバラードでも変わらずに基調としてあり続けます。

もっとつっこんで言うと彼の演奏からは壮大なストーリーテリングが感じられると思うのです。

ひょっとして、彼に近しい人たちならば彼の奏でるピアノからちゃんとした言葉が聞き取れるのではないかな
         といった馬鹿な妄想もしてしまいます。


このムサはソロピアノのアルバムで、あちこちのアルバム紹介ではアンビエント ミュージックのような扱いを受けているのを知りました。確かにそういう聴き方もあるのでしょうね。

また、アルバムがストラタイーストから出版されしかもカウエルがその経営に携わっていたせいでしょうが、戦闘的なブラック スピリチュアルとしての紹介も目にしました。

確かにこのアルバムには"Ancestral streams"と言う副題が付いています。先祖より受け継ぐ物といったほどの意味だと思います。

しかしながらこのアルバムからはアフリカの香りはすれども、もっと強く聴こえるのは、都会の中に生活する者としてのカウエルの人生であると私には感じられます。

音楽の聴き方はまさに人それぞれではありますが。


昨日、今日、明日と続く生活の中のふとした一日。

スタンリー カウエルの物語を聴きたくなったときにそっと取り出し、じっと一人でムサに耳を傾けます。

このアルバムがカウエルの亡き父親に捧げられていることなんか、わたしには知ったこっちゃありません。

これは私への物語だと信じて。



この記事へ記載のアルバム

  「ムサ」 スタンリー カウエル


2007年01月11日 レコード トラックバック:1 コメント:4

こんにちわ。
最後の数行、まさしく私の理想とする音楽の聴き方です。
でも或る程度の量を聴き出すと余計な欲望が自分を締め付けたりするんですよね。
で、時々、子供の頃のジャンルとか名前とかなど何も知らずに、自らの心と共鳴する音楽を聴きたいと探していた頃を思い出そうとします。中々難しいんですけどね(笑)。

私にとってフィアニスは何と言って良いのか表現の難しい演奏家です。まるでBGMのような趣の音楽をあの超絶のテクニックで聴かされて首を捻ったりなんて事も有ります。
カウエルは彼名義のアルバムを持っていないのです。イメージするほど聴いていません。ちょっと興味を持ちました。

2007年01月14日 falso URL 編集

falsoさん、こんにちは。

もうずっと前から気が付いているのですが、私にとって音楽を聴くことは個人的で独善的なもののようです。昔は求道的ですらあったようですが、最近はそのへんはルーズになってきました。
でもやはり、音楽を楽しむことにはかなり貪欲なようでもう一種の性になっています。
こんな自分が好きでもあり嫌いでもあります。

フィニアスについてですが、彼は天才には付き物の孤高な部分があるようで、そこを受け入れられるかどうかが楽しめる鍵であると感じます。

カウエルについてはフィニアスに比べると普通のひとなので、受け入れやすいと思います。一度聴いてみていただけると嬉しく思います。

2007年01月14日 Sonny URL 編集

こんばんは。
ソニー・ロリンズの新譜も気になる今日この頃ですが、実は、Sonnyさんのこの文章を読んで、密かにこのアルバムに興味を持っておりました。
で、やっと聴いてみまして、まだ、正直深いところまで分からないのですが、その辺綴ってみました。
TBしてみましたので、よろしくお願いします。

2007年02月11日 piouhgd URL 編集

piouhgdさん、こんにちは。
記事に興味を持っていただきありがとうございました。
ブログ早速拝見に伺います。

2007年02月11日 Sonny URL 編集












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Stanley CowellMusa - Ancestral Streams73年のソロ・ピアノ作。と、いかにも知っているかのように書いているけれど、スタンリー・カウエルという名前は、どこかで聞いたことがあるような、ないような、

2007年02月11日 call it anything