歌舞伎役者と義経、御前様と笠 智衆そして屋号




ジェイソン モランも東京公演だけであったようですが、クリスポッター入りのデイブ ホランドも大阪公演は無いようで残念です。

なかなかジャズのライブに足を運んでいないのに、相変わらず古典芸能には足しげく通っております。


先週も文楽へと行って来たのですがその前の週には歌舞伎も見てきました。

今回の大阪松竹座歌舞伎公演には市川海老蔵が義経役で出演する予定だったのですが、あいにくの怪我と言うことで代役に坂東薪車が代役を務めていました。


日本人は義経が好きと言うのはもう戦前の話で、現在では何のこっちゃいなというのが大方の意見ではないのでしょうか。

ただ、いまでも「判官びいき」という弱者に対する日本人の心情をあらわすことばは良く使われています。もっとも今の若い子はこの言葉が義経に由来することなど知りはしないと思いますが。


現在においても文楽や歌舞伎をご覧になる方の間では義経の人気は絶大であります。

ほとんどお芝居の筋書きには関係の無い場面でも
 「さしたる用も無かりせば……」
なんて言いながらすぐに引っ込むのに、チョイ役で義経が出演したりします。


たいていの場合義経というのは主役級では有っても台詞の多い役所ではないことが多いです。しかしながら義経というのは二枚目中の二枚目の役ですし、場面がしまるような大きな役者さんがつとめるのが常です。

派手な動きもほとんど無くその場で立っているいるだけで、芝居になるような実力が役者さんには要求されます。

ちょうど映画の寅さんシリーズに出てくる、御前様役と笠 智衆の関係のような物を想像していただくと良いかと思います。


まだお若い坂東薪車には急な代役での義経役はちょっとばかり荷が重かったのは無理からぬことだと思います。

そういえば笠さんが亡くなられてからもその代役は見つからず、御前様はスクリーンには登場せずとも生きていることになっていましたね。



話は変わりますが、坂東薪車の屋号は「音羽屋」です。坂東姓であるからは「大和屋」かと思えばさにあらずです。師匠筋を正確に知っていたならばそれも納得がいく話ですが、なかなかに屋号と言うのはやっかいな物です。


歌舞伎では役を演じている役者さんにこの屋号が盛んに掛け声としてかけられます。

この掛け声と言うのも歌舞伎独特の物ですが、なかなか面白いことだと感じます。

たとえば今回義経役を演じていた坂東薪車には「音羽屋!」と声がかかります。決して「義経!」と声がかかったりはしません。

舞台上の薪車は義経を演じている最中ですから、「義経!」と声がかかりそうなもんですが。

何ゆえに舞台上で繰り広げられている虚構の演技を、ことさらに役者が演じていると知らしめる役者の芸名で声をかけるのか。


舞台は舞台上の虚構の世界が現出されていてるのに、観客達は芸人である実在の役者が演じていることをも意識している。
たぶん、舞台上の役者もまたそのことを当然としている。


これは舞台の外の現実の世界に生きている観客と舞台上のお芝居との間が大きく繋がれていることの現われのように思います。

なんとも歌舞伎の世界とは不思議な巧妙で奥深い世界だと、いまさらながらに感じます。

いやはや古典芸能は面白い。


今回はまとまりも無く思いつくままに書き留めました。

2007年08月08日 ジャズではない話 トラックバック:0 コメント:0












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