文楽のお人形に想いを

kokuritubunnraku.jpg


国立文楽劇場11月公演の「近江源氏先陣館」を観にいってきました。ジャズのライブに足を運ばずにまたもや古典芸能です(笑)。いやぁ本当はジャズの演奏も聴きたいのですが、なかなか大阪には行ってみたい演者が来なくって……


以前に鶴澤 清治にこころを奪われた記事を書きました。

そのとき同様に事前に切符を買ったのではなく、ちょっと早起きして当日の幕見席での鑑賞です。お目当ては当然のごとく鶴澤清治のお三味線に有ります。

ちょっと寂しくもありますがお客さんの入りは七分程度といったところで、幕見席も前回と同じくお浄瑠璃に近い一番良い席で観る事が出来ました。


前回に清治さんの三味線を聴いたときにはまだ受賞以前でしたが、今回は人間国宝の鶴澤清治と言うことになります。当然のことながら人間国宝であろうがなかろうが清治さんの演奏が変わるわけでは有りません。

ただ、今回の受賞は私にとってもとっても喜ばしい物でした。まだまだ人間国宝としてはお若い年齢での受賞ですがまさに順当な結果のように思います。

まぁ、文楽についてそれほどの鑑賞力のない私がそんなことをいうのもたわけた話ですが(笑)。



文楽も歌舞伎も同じ古典芸能で同じ狂言(出し物)を上演することが多いです

文楽の面白さと言うのはどこにあるのかというと、ものを言わないお人形にその秘密があるように思います。

文楽ではお浄瑠璃(関西では普通にお浄瑠璃というと義太夫の事を指します)が芝居の台詞やナレーションを受け持ちます。そういう意味ではお人形がいなくてもただただお浄瑠璃だけで演じられる素浄瑠璃でも充分に鑑賞に足りうる物です。


それではお人形は文楽において一体何の意味を持つのでしょうか。

良く文楽をご覧になった方が
 「まさに人形が活きているように生き生きと動いている」
との感想をお持ちになります。

確かに文楽でのお人形は卓越した使い手の技によって、ただの木偶とは思えないほどの繊細な動きを見せます。人形ゆえのこの世の物とは思えない演技をも演じてくれます。


「まさに人形が活きているように生き生きと動いている」という所以ですが、そこには使い手の力とは別にもう一つの理由があるように思います。

いかに使い手が力が有るとて人形は人形。魂があるわけではありません。

ところが観客がお芝居の世界にずっぽりとハマるにつれ、その木偶人形に大きな思い入れを抱くようになります。

人形に細かな表情やリアルな動きのない部分を、お芝居の登場人物に感情移入した観客の思い入れが補って余りある働きをするようです。鑑賞者の心に描かれた人物像がお人形に投影され、そのことが役を演じている人形が人間以上に役の姿を現出させてくれます。


このことは映画を見ること(普通のお芝居も)と、小説を読むことの違いに良く似ているように思います。

小説で読んだことの有る筋書きの映画を見たときに、自分が頭の中で構築していた登場人物像と、映画で起用された役者さんのニンが一致せずに違和感を感じることがあると思います。

物語の登場人物を実際の役者さんが演ずるのに比べ、小説を読んでヴァーチャルに作り上げた人物像ははるかに読者の意識の中でピッタリとした実在感を持ちます。


また、文楽のお人形による服装のしつらえや髪形そして所作はお浄瑠璃では知りえない具体的なヴィジョンも私達に提供してくれます。

これらのことが実際に役者さんが演ずるお芝居とは違って、舞台で繰り広げられる人形浄瑠璃が観客の心に深い感動をもたらしているように思います。

文楽はお芝居の良さと小説の朗読のよさを兼ね備えた二つとない世界を描き出してくれると言えます。

お人形に語りにお三味線の三つがピッタリとはまり、観客の意識がそこへシンクロできたときには、他の芸能にはない深い感動が得られることになります。

いや、本当に文楽は面白いです。


さて、今回も清治さんのお三味線には唸らされることになりました。前回はその力強い音色がお芝居を先導しているような感がありました。

今回はそれとは異なりお芝居の空間を大きく作り出すような、柔らかな間に大きく感心しました。

当然のことながらお芝居の筋次第や共演者によって、最適な演奏を行っているということでしょう。いやぁでもなかなかに凄いお三味線ですなぁ。

相方のリムスキーは前回のようなダイナミックな三味線を期待していたようで少しすかされたようですが。このあたりは上手いベーシストの持ち味と良く似ているように思います。


三味線ばかりを聴いていては文楽の良さを味わいつくすというわけにはいかず、お人形や語りにも等分に楽しまないといけないなぁと少し反省気味の私です。

文雀さんの使っておられた老婆の微妙は少しばかり心に残りました。


文楽を見る力ももう少しつけていきたいと思います。







2007年11月20日 古典 文楽 トラックバック:0 コメント:0












管理者にだけ公開する