アル フォスター 礼賛



"The big push" Larry willis(High Note)

 1940年生まれということはラリー ウィリスも今年で66才になるわけですね。彼の名前が知られるようになるのはジャッキー マクリーンのアルバム"Right now!"によってだと思いますがそれから数えても40年以上のキャリアを持っていることになります。リーダー作も多分20枚近くにのぼるのではないでしょうか。
 そのわりには彼の名前がジャズファンの間で交わされることはまれだと思います。デビューした頃のプレイからはハンコックからの色濃い影響にところどころマッコイの匂いがするといった演奏ぶりでした。その後グルーブ マーチャントからブラック色の濃いアルバムを出したり、メープルシェードからは繊細で知的さを感じさせるアルバムを出したりしています。
 サイドメンとしての活動もウディ ショウのグループでは新主流派的な演奏を行い、かと思うとナット アダリーのメンバーとしてはウィントン ケリーを思わせるピアノを弾いています。よく言えばバーサタイルといえるのでしょうが確たる個性がないようにも思えます。
 ここにご紹介するアルバムでは個性溢れる素晴しいリズム陣を得た彼の新譜です。
 アルバムを一聴して気が付くのは分厚い音色で、間違うことの無いヴァン ゲルダーの録音です。個人的な好みではゲルダーの録音によるピアノ トリオというのはあまり感心しません。彼の手になるピアノの音色はどうも音がくぐもってしまい繊細なピアノのタッチを聴き取ることが出来なくなってしまいます。ただしその分ピアノの音圧が増し、その事を好む人もいるのですけれども。ですが、彼のドラムスと管楽器の録音に関しては俗に言うところの本物より本物らしい音色でまさにジャズを感じさせてくれる物だと思います。
 ベースにはベテランのバスター ウィリアムズが起用されています。彼は縁の下の力持ちと呼ばれる通常のベーシストの役割より、幾分音楽の基調を打ち出す傾向が強いミュージシャンだと言えます。そのことがこのアルバムでもうかがえるようで、曲想を支配しているのは彼のベースのようです。そのうえで自由にメロディにカウンターを当てたりスペースを揺さぶったりと音楽に多彩な色合いを与えています。
 ドラムスにはいつの場合にも素晴しいこれまたベテランのアルフォスターが相手を務めています。彼のドラミングの良さは世評に比べいくら強調しても足りないような気がしています。まずそのクリアーな音色。ダイナミクスの幅の広さ。フレーズの多彩なこと。共演者の音を大変良く聴いていてそれに対する反応の速さ。などなどいくらでもあげることが出来ます。
 さてこの素晴しい共演者を得て、ラリー ウィリスはただただ自分の表現したいことをピアノで演奏することに没頭できたように思います。誰かのようなピアノを弾くのではなく今まで自分が培ってきた音楽の表現が素直に出来ているように聴こえます。
 派手さは無いのですが、実に気持ちの良い作品に仕上がっています。聴き始めて気が付くとあっという間に一枚のCDを聴きとおしてしまうアルバムです。日常、あまり気負わずにピアノトリオを楽しみたいと思う方にまさにうってつけだと推薦します。
 ここでまた繰り返してしまうのですが、アル フォスターのドラミングのなんと素晴しいことでしょう。微に入り細を穿ちかゆいところに手が届く細やかな演奏。千変万化するフレージング。いつしか彼のドラムにじっと耳をすましている自分に気付いたりします。ゲルダーの好録音もありドラムを聴くために買っても損が無い演奏だと思います。
 こういうとまたラリー ウィリスの影が薄くなってしまいますね。またこのメンバーでの録音を聞いてみたいものです。レギュラー化して彼のピアノの個性がさらに深まるのを楽しみたいのですがどうでしょうかね。

2006年03月13日 新譜紹介 トラックバック:0 コメント:0












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