ジャズ屋未満トラキチ未満(Sonnyプロト版)

ジャズについてとりとめもなく考えをめぐらす今日この頃でございます。

ゆっくり現れたスタイリスト シダー ウォルトン

>


"Underground Memories" Cedar Walton (High Note)

 シダー ウォルトンといえば、「玄人受けのする」「いぶし銀のような」「過小評価された」という表現をされることが多いピアニストです。これは国内の評価のみなならず、アメリカ本国でも"underrated"との記述がよく見受けられます。なるほど地味だという印象はぬぐえないかもしれません。
 日本で彼のことが良く知られるようになったのはウェイン ショーターを擁した時のジャズメッセンジャーズのメンバーとしてでしょう。同時代の主要なピアニストとしてはハービー ハンコックやマッコイ タイナーがあげられると思います。この二人がメジャーデビューして数年のうちに自分自身のスタイルを確立しているのに比べ、シダーはデビュー当初の演奏は器用ではあるが個性といった面で希薄であるとの感じを受けます。
  シダーはこのアルバムの録音時(2005年)71歳であるということは、先の二人に比べて最年長であるわけです。にもかかわらず60年代当初彼が活躍を始めたときの参加アルバムでは、ハンコック風であったりマッコイ風であったりティモンズのようであったりといった演奏に終始していたようです。このことがシダーがまるで彼らより後輩に感じるような錯覚をおこさせるのでしょう。
 ハンコックがマイルズのグループのピアニストを務め、マッコイがコルトレーンのグループのメンバーであったことも彼の影を薄くしている要因かもしれません。
 コルトレーンがジャイアントステップを録音する際に一番初めに起用したのはシダーであったのですが、結局のところ発売時にクレジットされているピアノはトミー フラナガンであったというのもなにやら意味深長なものを感じさせます。
 70年代に入ってクリフォード ジョーダンのリズム隊として、サムジョーンズ、ビリー ヒギンズと共にマジック トライアングルを結成し好評を博するようになります。その頃にはシダーのピアノは確たる個性を身に付け素晴しい演奏者に成長しています。
 あまり触れられることがないのですが60年代の終わりごろより彼はミルト ジャクソンと数多くの共演をこなしています。シダーの弾くピアノに感じられるブルーズの香りや、独特のノリはミルトからの影響が色濃く出ているように思います。
 いまやシダーのピアノの影響は数多くの若いピアニストに見て取れるようになりましたが、特にいい具合に彼の個性を自分のものにしているのはリニー ロスネスではないでしょうか。彼女の最近の演奏も一度耳にしてみてください。
 さて、ここで紹介しているアルバムでは、自作の表題曲のほかに9曲のスタンダードをソロで演奏しています。作曲家としても日本人には特に印象的な"Ugetsu"をはじめいい作品が多数ある彼ですが、ここでは著名な曲を中心にアルバムが構成されています。ですが、日本制作の作品にありがちなメロディーべったりのつまらない演奏はまったくありません。どの曲もシダーの解釈と一流のピアニズムで、ピアノソロでも中だるみなど微塵も感じさせない素敵な作品に仕上がっています。
 ゆっくりと自分の個性をはぐくんできたスタイリスト、シダー ウォルトン。彼のことを地味なピアニストと呼ぶのではなく、滋味のあるピアノだと理解してくれればうれしいです。ピアノ好きな方は買って損することがない作品だと保証いたします。